1980年代

Coming Up (1980年)



 この曲のレコーディングではポールがすべての楽器を担当しているが、プロモでも同じコンセプトで、ポール一人が10人の役をこなし、リンダが2人分の役をこなし、合計12人が同時に演奏している映像で構成されているという、当時では画期的な技術を駆使したプロモになっている。1980年当時は1人が同じ画面上に登場させるということは技術的にも難しかったようであるが、撮影はキース・マクミラン監督のもと、ロンドン南部のウォンズワースにあるエワートのテレビスタジオで1980年3月26日から27日にかけて2日がかりで行われた。なお、キース・マクミランは「Coming Up」の他、「I've Had Enough」「Goodnight Tonight」「Getting Closer」「Baby's Request」「Old Siam, Sir」「Winter Rose/Love Awake」「Spit It On」「Arrow Through Me」「Waterfalls」「Ebony And Ivory」「Pipes Of Peace」のプロモの監督をしている。
 ポールとリンダが扮しているこのバンドは「Plastic Macs」と名付けられ、ポールは1965年頃のビートルズ時代のポール、ハンク・マービン、ロン・メイル、デイブ・ギルモア、アンディー・マッケイ、バディー・ホリーなどに、リンダは女性シンガーと男性シンガーに扮している。
 このプロモの監督、キース・マクミランは次のように語っている。
「ビデオの中で、僕が大好きな場面があるんだ。ステージの中でサックス・プレイヤーのポールが別のミュージシャンのポールと視線を交わすんだよ。これはポールのアイデアで、すべて計算の上でのことなんだけど、この演出はとてもうまく生きているよね。もう一つそういう場面があって、二人のギタリストが目を合わせてお互いにギターを振り上げるんだ。こういう細かいところで雰囲気が出ていて、とてもいいなあ。本当のバンドになりきっているよね。」
 このプロモは、ポールが1980年にサタデー・ナイト・ライブに出演したときにも放送された。日本でも、当時からよく放送されている。

Waterfalls (1980年)

 ポールがキーボードを使って作曲している場面から始まり、この曲の歌詞に登場する白熊、噴水、メリーゴーランドをバックに歌うポールの姿がフィーチャーされている。なお、このプロモに登場する白熊(Polar Bear)は本物であり、プロモの撮影時には万が一の時のために、麻酔銃を用意していたとのこと。なお、このプロモの一部は公式ビデオ「Portrait / Paul McCartney Special」で見ることができる。この曲のプロモもビデオ・バージョンとフィルム・バージョンが残されている。

Ebony And Ivory (1981年)

 ポール・マッカートニーとスティービー・ワンダーの競演が話題となって全米1位を獲得した曲だが、プロモでもポールとスティービーが競演している。ただし、スケジュールの関係で、ポールとスティービーが同じ場所で撮影することができず、ポールのパートはロンドンで、スティービーのパートはロスで撮影し、後で画面を合成して、あたかも二人が同じ場所にいるように編集されている。撮影当初は、ポールがスティービーにウィンクを送るという設定だったが、「僕は目が見えないので、ポールから送ってくるウィンクに反応するというのはおかしい」というスティービーの意見で、スティービーがポールにウィンクを送った後に、ポールがウィンクし返すという設定になった。曲の最後の方には、「Coming Up」のように、キーボード、ベース、ドラム、ボンゴ、ギターを弾くポールの姿が一画面上に登場する。

Ebony And Ivory (Solo) (1981年)

 シングルのB面にしか収録されていないソロ・バージョンである。レコードと同様に、プロモでもスティービーは登場しない。ポールはここではピアノの弾き語りを披露している。

Take It Away (1982年)

 ポール、リンダ、リンゴ・スター、10ccのエリック・スチュアート、ジョージ・マーティン、スティーブ・ガットが参加しており、リンゴ・スターとスティーブ・ガットのツインドラム、ジョージ・マーティンのピアノも見物である。このバンドが、家の中でリハーサルをしている風景に始まり、スタジオでのレコーディング、さらにはライブ、楽屋裏へと映像が切り替わっていく。ポールが場面によって、ヘフナー、リッケンバッカー、ヤマハのベースの3種類を使ってることに注目。なお、このプロモのライブの場面は、ウィングス・ファンクラブの会員の前で演奏している姿を撮影したものである。
 このプロモの一部は、公式ビデオ「Portrait / Paul McCartney Special」で見ることができる。

Tug Of War (1982年)

 ポールがギターの弾き語りをしている場面、レコーディング・スタジオでジョージ・マーティンと打ち合わせをしている場面と、歌詞に合わせて、未来を想定した映像、綱引きをしている映像がかぶさる。このプロモの一部は、公式ビデオ「Portrait / Paul McCartney Special」で見ることができる。

Here Today #1 (1982年)

 ビートルズ時代のジョン・レノン、ポールの写真コラージュで構成されているプロモ。

Here Today #2 (1982年)
 バージョン1と同じく、写真コラージュで構成されているが、使用されている写真がバージョン1とは違う。

Say Say Say (1983年)

 ポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンの競演で話題となった曲であるが、プロモでも2人は競演している。プロモの監督はマイケル・ジャクソンの映画「Beat It」を撮影したボブ・ジラルディである。ロケーションは、ロスから70マイルほど離れたロス・アラモスという小さな町が選ばれた。
 ポールとマイケルが「Mac&Jack」という道化師になって、小さな町に訪れるというストーリー仕立てのプロモで、「Mac&Jask Show」と題したショーを披露している。このプロモには、ポールの娘のヒーザー、マイケルの妹のラトーヤも出演している。

Pipes Of Peace (1983年)

 第1次世界大戦中(1914年12月25日)のドイツ軍とフランス軍の戦いをモチーフにして、ポールがドイツ軍兵士とフランス軍兵士の2役をこなしている。このプロモのために、ポールは髪を刈り上げた。

So Bad (1983年)

 ポール、リンダ、リンゴ・スター、エリック・スチュアートの4人によるスタジオ・ライブ。ポールがリッケン・バッカーのベースをフィンガー・ピッキングで演奏する姿が見物だ。

The Man (1983年)
 1984年の映画「Give My Regards To Broad Street」の撮影風景のスナップ写真で構成されている。ポール自身が作成したプロモなのか、後にテレビ局が作成したプロモなのかは不明。

No More Lonely Nights (1984年)

 1984年のポール・マッカートニー脚本・主演・音楽担当の映画「Give My Regards To Broad Street」の主題歌であるこの曲のプロモは、ポールがロンドンのある場所(映像からして、おそらくロンドン・ブリッジの付近であると思われる)をこの曲を歌いながら散歩している姿と、映画から数カットがフィーチャーされている。ポールがこの歌を歌っている姿のバックに花火が上がったり、ロンドン・ブリッジからのロンドンの夜景、ロンドンの夜の繁華街など、美しいシーンが感動的である。

No More Lonely Nights (disco) (1984年)

 ディスコ・バージョンであるこの曲のプロモは、ディスコでハンドマイク片手に歌うポール・マッカートニーの姿、各国のダンスの映像が含まれている。各国のダンスの映像の中には、日本の相撲の映像も含まれている。
 公式ビデオ「VIDEO AID」(LIVE AIDの10周年記念のビデオ)にこの曲のプロモが全編収められている。

We All Stand Together (Promo) (1984年)

 1984年の家庭用ビデオ「Rupert And The Frog Song」のために制作されたプロモである。

We All Stand Together (from the video RUPERT THE BEAR) (1984年)

Spies Like Us #1 (1985年)

 この曲のプロモは2バージョンあるが、基本的な部分に違いはなく、どちらも1985年10月9日にロンドンのアビーロード・スタジオで撮影されたものである。数人に変装したポールがアビーロード・スタジオに到着する姿から始まるが、それぞれ、自転車、「Ace Tomato」と書かれたトラック、2階建てバスに乗って到着するのがおもしろい。この場面は、人気のない朝の5時に撮影された。
 その次の場面では、レーガン元アメリカ大統領のお面を被った人物がリッケンバッカーのベースを持って登場するが、お面をとると、それがポールであることがわかる。その次の場面からは、ポール(ベース・ドラム・ギターの3役)と、映画に出演したチェビー・チェイス、ダン・エイクロー土による演奏シーンと、映画「Spies Like Us」からのシーンが映し出される。
 この曲の最後に、ポールを含め3人がアビーロード・スタジオの前の横断歩道を渡るという、ビートルズのアルバム「Abbey Road」のジャケットのパロディーが登場するのが見所である。

Spies Like Us #2 (1985年)
 バージョン2は、ポールとプロデューサーの演奏シーンの時に、映画「Spies Like Us」に出演した女優2人がコーラスで参加しているシーンが挿入されるというところが、バージョン1と異なる。

Press (1986年)

 この曲のプロモの撮影は、ポールが25年ぶりにロンドンの地下鉄に乗って行われた。ポールがBaker Streetの駅に乗って、アビーロードスタジオの最寄り駅であるSt. John's Wood駅まで乗っている様子が収められている。
 このプロモの撮影について、ポールは次のように語っている。
 「最初に話し合ったプロモは、よくあるような、お金をかけて大きなセットですごい衣装を出演者に着せて、映画でも撮るみたいなものだったんだ。だけど、僕はそういうものが嫌で、というのも、「近頃のビデオは曲の内容から離れすぎていて嫌だ」という人が多いよね。大抵ラジオかなんかで曲を聴いて頭の中でイメージが出来上がっていて、それからビデオを見ると、全くかけ離れたもので、驚いてしまうんだ。大きいSF風のセットが出てきたりしてね。僕もそういうふうなのにはあきあきしてたんだ。それで、休みの日に「Press」のレコードを聴いていたら、「All these people are listening in」という歌詞のところで、カクテルパーティーみたいな混んでいる部屋で、人々が聞いていたりいなかったりというようなイメージが浮かんで、それが地下鉄のイメージに発展していったわけなんだ。地下鉄じゃ、お互い無関心なふりをして新聞を覗き合ったりしているよね。他人越しに広告を読んだり。エレベーターの中と同じだね。」
 「最初はBond Street駅から地下鉄に乗ったんだ。僕は思わずカメラマンに言ったね「なんだか恥ずかしいね」って。地下鉄の中で本当にこんなことをするのかって思ったんだ。大勢の前で、曲をプレイバックしながら、「Darling, I love you very very much」なんてね。そう思うとゾッとしたから、初めはテストで一人で座ってみたんだ。「よかったらウィンクするからね」ってカメラマンに言っておいてね。それで、最初はカメラは別なカットを撮っていた。そのうち平気そうな雰囲気になったので、肝を据えて、ウィンクしたよ。恥ずかしかったね。周りの人もそのハプニングを快く受け止めてくれてたしね。ビデオにはその中で一番いいカットを使ったんだ。結局4時間撮影したんだけど、安くあげられたのもよかったしね。ちょっとしたアイデアで出来るものを見せたかったんだ。「あれなら、俺達にもできたよ」ってね。」

Only Love Remains (1986年)

 演奏に参加しているリンダ・マッカートニー、エリック・スチュアート、オーケストラやポールが演奏しているシーンに、ポールとリンダがステージの袖の居間のセットで過ごすシーンを、一台のカメラで追っているという作りになっている。
 なお、サックスは生録りされていて、アルバムに収められているものとバージョンが異なる。

Pretty Little Head (1986年)

 ビートルズの「She's Leaving Home」を題材にしている曲なので、オープニングには「She's Leaving Home」のエンディングが流れ、この曲がスタートする。
 夫と喧嘩した女性が家出をするが、その途中でいろいろなトラブルに巻き込まれてしまうというストーリー仕立てのプロモで、ビルの壁に巨大化したポールが登場するなど、凝った作りになっている。
 公式ビデオ「Once Upon A Video」で全編見ることができるが、現在このビデオは廃盤となっている。

Stranglehold (1986年)

 このプロモの撮影は、アメリカ・アリゾナ州にある「Cactus Club」で行われ、その日はこのプロモの撮影の他に、内輪だけのシークレット・ギグを行った。この模様はブートCD「Arizona Soundchecks 1990 + Cactus Club, Arizona 1986」に収められており、ポールを含むバンドは「Fortune Teller」「Love In Strange」「Tequila」「Stranglehold」を演奏している。
 プロモは、クラブでライブを行っているところに、サックスを持った男の子が飛び入り参加するという設定である。「Move Over Busker」のエンディングで始まり、その次にこの曲が始まる。
 入場を拒否されていた男の子がリンダの許可で入場できると、客席で一緒になってサックスを吹き、後半部分から、ポールの指示によりステージに上がるという構成である。なお、男の子のサックスは生録りされている。
 この曲も公式ビデオ「Once Upon A Video」で見ることができる。

 

Once Upon A Long Ago #1 (1987年)

 このプロモは、イギリス本島の北西に位置するアイスランドで撮影が行われた。アイスランドの小高い丘の上で演奏するポールとバンドの姿がフィーチャーされている。なお、このプロモに登場するドラマーは、1989年からのワールドツアーに参加したドラマーのクリス・ウィットン。
 このプロモの中程には、可愛らしいアニメが挿入されている。
 なお、このプロモの撮影の際に、ポールは小高い丘の崖から転落しそうになり、一命を取り留めたそうである。

Once Upon A Long Ago #2 (1987年)
 バージョン1と、一部カメラアングルが異なり、また、挿入されているアニメの使用カット数が少ないだけで、基本的にはバージョン1と変わらないプロモ。

Once Upon A Long Ago #3 (1987年)

 1987年11月18日に日本の音楽番組「夜のヒットスタジオ・デラックス」に出演したときと同じコンセプトで、舞台の裏方がミスをしてしまい、冬の雪が降る演出をするところが、夏の演出をしてしまったというかたちになっているプロモ。ただ、このプロモは、「夜のヒットスタジオ・デラックス」に出演したときと違い、小学校の学芸会の舞台に出ているという形をとっている。

My Brave Face (1989年)

 日本人コレクターをモチーフにしたプロモ。ポールに関するものなら何でも収集するコレクターが、サザビー・オークションなどで買ったコレクション、貴重な映像、サージェント・ペッパーの衣装等を手に持って自慢するが、ポールの所有するヘフナー・ベースまで欲しくなってしまい、倉庫に侵入して盗んだところを日本人の警官に捕まってしまうというストーリー。
 ビートルズ時代の映像、ウィングス全盛期の映像、エルビス・コステロとのリハーサル映像など貴重な映像を時折見ることができる。

My Brave Face (making version) (1989年)

 上述のプロモのメイキング・バージョン。TBSの「MTV Japan」で放送された。曲に合わせて演奏するバンドの姿だけをフィーチャーしている。

This One #1 (1989年)

 この曲のプロモは2種類あり、使われている映像が全く異なる。
 このプロモはバージョン1であり、盲目になった人が、スワンを追いかけるというコンセプトをベースにしており、ポールとリンダ、1989年からのツアーバンドのメンバーが、盲目の人を演じ、また途中では、澄んだ池の上に浮かんでいるスワンに、ピンクのユリを抱えたクリシュナが乗っているという場面がある。この曲の曲想を表したような映像になっている。

This One #2 (1989年)

 バージョン2は、サイケデリック調の強いもので、ポールのバンドのメンバーを撮影したものになっている。バンドのスナップ写真をくっつけたような雰囲気になっているが、実際は映像に撮影したもののコマ送り数を少なくしているだけのことである。