ザ・ビートルズのリマスター盤 関係者インタビュー(その2)

 

 リマスターによって生まれ変わったザ・ビートルズ(以下、ビートルズ)のアルバムを、いかにして売るか。それがEMIミュージック・ジャパン(東京・赤坂)に課せられた使命だった。どのようにしてリマスターの効果をアピールするか。いかに新しいファンを発掘するか。そうした「売る側」の不断の努力があればこそビートルズはその魅力を保っていける、とEMIミュージック・ジャパンの大島隆義さんは語る。

リマスター盤購入のボリュームゾーンは40代以上の「買い替え需要」

――ウェブでのプロモーション活動は、私もいくつか目にしました。ビートルズのオリジナルアルバムとしては初のリマスター盤あることはいずれのメディアも大きく謳っていましたが、しかしリマスターによってどれだけ音が良くなったかの具体的な訴求はあまりなされていないように感じました。

 大島 そう指摘されると確かにそうかもしれませんね。昨今はPCまわりのAV環境もずいぶん向上していますし、だからウェブ上で新旧アルバムの聴き比べみたいな企画をやっても良かったのではないかな、と個人的には思います。ただそれは、実現は非常に難しい。権利問題? もちろんそれもありますが、何よりビートルズのポリシー的にできないのだ、とご理解いただきたいです。

 ただ、実際に聴き比べしていただくことはできないまでも、リマスターの効果については機を捉えてアピールしていたつもりです。音楽雑誌に積極的にパブリシティーを出したり、レビューで取り上げていただけるよう働きかけたりとかね。そしてそれは、ある程度以上に効果を挙げたと自負しています。なぜならば、この新しいリマスター盤は爆発的に売れているからです。

 当初、弊社ではトータル100万枚の売り上げを目標に設定していました。ところが蓋を開けてみると、わずか1カ月足らずで倍の200万枚が売れ、今では350万枚突破も視野に入るほどになっています。2009年9月に限定していえば、ビートルズこそ洋楽・邦楽問わず一番売れたアーティストでしょう。購入のボリュームゾーンは40代以上のファン。すなわち、すでにビートルズのCDをお持ちだと思われる方なのです。いうならば買い替え需要を強力に喚起したわけで、これはリマスター盤の価値が伝わった証拠にほかならないと考えています。

 話は戻りますが、リマスターの音をまったく公開していない、ということもないのですよ。弊社のウェブサイトのビートルズ特集ページでは、今回のリマスターをストリーミングで流しています。これはビートルズの有名曲・人気曲の一部をコラージュ的に再構成したもので、だから1曲丸ごと視聴できるわけではありません。それでも「公式」にビートルズの楽曲をウェブに流すのは、実はこれが初めてなんです。

英国サイドの意向に「支配されている」わけではない

――「楽曲の聴き比べができない」ということもそうですが、英EMIミュージックやアップル・コア(ビートルズの各種権利を管理している英国企業)の意向が日本でのマーケティング展開において障害になるということはありませんか。

 大島 また微妙な質問を(笑)。結論から先に申しますと、「特にありません」。もちろんビートルズは英国の権利保持者によって、音楽はもとより写真などの絵素材も厳重なコントロール下に置かれています。業界用語では「ダマ」っていうんですけれど、いかに広報用途とてビートルズ関連素材を「黙って」使うことは、EMIミュージックの日本法人たる弊社でもできません。

 ただしこれは、英国サイドの意向にがんじがらめになっているということではない。弊社から「こういう素材を、こういう用途で使いたい」と申請し、それが妥当なものであると認められれば、使用許可は下ります。たとえば今回のリマスター盤の発売にあたっても、「1966年の武道館公演でのフィルムを使わせてほしい」と申請し、それがきちんと承認された経緯があります。またビートルズが主演した映画『HELP!』の動画を携帯サイトで公開することもできました。

 販促活動においては、英国サイドと議論をすることもあります。前回、「13のポータルサイトと提携してパブリシティーをさせていただきました」とお話ししましたね。私はサイトをご覧になったファンの方へ、キャンバス地にビートルズのアルバムジャケットをプリントしてプレゼントとしようと思ったのです。そこで英国サイドに許可を求めたのですが、一度はあっさり却下されてしまった。

 
日本オリジナルのプレゼントはキャンバス地にアルバムジャケットをプリントしたもの。サイズは75センチ四方とかなり大きい。「世界に1点しかない、という意味では貴重なものになったと思います」(大島さん)。写真提供:EMIミュージック・ジャパン

 却下の理由はよく分かりませんが、推測するに「そうするだけの積極的な意味が見出せない」ということだったのではないでしょうか。しかし私は、今回のリマスター盤の発売はビートルズの歴史にとっても大きなメルクマールであり、どうせなら世界に一つしかないものを作りたかったのです。そう訴えたら今度はあっさり許可が下りました。英国サイドにとっても日本は米国と並ぶ巨大な市場ですから、こちらの意見や要望がないがしろにされるということはないですね。

 今回のリマスター盤の発売にあたっては、NHKでニュースとして取り上げられたり、バラエティー番組でも多く紹介されるなどしました。新聞も3大紙はもとより、地方紙でも記事になった。要するに社会全体が「事件」として捉えてくれたのです。それは、自画自賛になりますが我々EMIミュージック・ジャパンのマーケティングの成果であり、微力ながら携わった私も大きな満足を覚えるところです。確かに広報活動においては英国サイドの意向を逐一汲みつつ行わなくてはなりませんが、だからといって「支配されている」というわけではないし、まして達成感もないというわけでもないのです。

「売る努力」があればこそビートルズの楽曲は永遠を保っている

――「CDが売れない」といわれて久しい昨今です。今回のリマスター盤の発売は、ビートルズほどの音楽家であっても常に付加価値をつけてプロモーションしていかなくてはビジネス的には厳しくなる、ということなのでしょうか。

 大島 うーん。付加価値をつけた、という側面はあるでしょうね。いかにビートルズとはいえ時代の趨勢にしっかりミートさせていく作業は不可欠で、そのための作業と成果を「付加価値」と呼ぶことはできるでしょう。我々の業界で「付加価値」というと、特製ステッカーを同梱したとか、あるいはフィギュアを付属させたといったことが連想されてしまうのですが、今回のリマスター盤は明らかにそういう小手先のものとはレベルが違います。

 最初の付加価値は、それこそ1987年の初CD化です。時代がアナログからデジタルに移り、それにしっかり対応した。90年以降、ベスト盤やリハーサルテイク集の発売、ジョン・レノンの遺作にメンバー3人が手を加えた「新曲」の発表などをした。これらもやっぱり時代に合わせていくという意味での「付加価値」なんですね。だからこそ、それぞれ大きな話題にもなったし、ビッグセールスも記録したんです。

――ところで来年2010年はビートルズ解散からちょうど40周年です。ということは、リマスターの発売を3~4カ月遅らせさえすれば、より効果的なプロモーションができたのではありませんか。

 大島 それはですね、全然考えてなかったです(笑)。正確にいえば「考える必要はなかった」ということでしょうか。実はこの9月にビートルズの、というよりロック史上の名盤中の名盤である『ABBEY ROAD』発売40周年を迎えたのですが、私はリマスター盤のマーケティング作業に追われて直前まで忘れていたくらいです。何しろビートルズですからね、そんなメモリアルイヤーみたいなものに拘泥する必要性は少ない。

 そうはいっても来年になれば、それこそ「解散40周年」ということで何がしかのプロモーションは仕掛けるとは思いますけどね。というのは、若年層ファンの掘り起こしを大変に重要な課題として捉えているからです。むろん、「アラフォー」と呼ばれる世代以上の方にとってビートルズは定番的な存在でしょう。しかし10~20代の若い人はせいぜい『YESTERDAY』『LET IT BE』くらいしかご存知ないだろう、と我々は認識しています。

 もちろん今回のリマスター盤の発売とそれに伴うプロモーションで、若い人たちにも「ビートルズという偉大な存在がある」「その存在に大きなリノベーションが起きている」程度のことは伝えられたと思う。今後はそういう若年層に対して、いかに「購買」という具体的なアクションを起こさせるかが我々の大切なテーマです。それを実現するためには、時にはあえて「40周年」というメモリアル性をフックにしたプロモーションも必要になるかもしれません。

 先に「350万枚も視野に入れている」と申しました。これを実現するためには既存のファンに買い替えをお願いするだけでは駄目で、やはり新規の若いファンを獲得していく必要がある。ビートルズはまぎれもなく永遠のコンテンツであり、それは楽曲の魅力が大きく貢献していることは疑いもない事実です。しかしその陰にはやはり、全世界規模での売る努力、若いファンを開拓していく戦略が連綿として存在してきたのです。

Source: nikkeibp.co.jp

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