ビートルズ・リマスター盤を聴いた大橋伸太郎氏のレポート

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7月上旬に東京・恵比寿のマランツショールームで開催されたリマスター盤の試聴会に参加した大橋伸太郎氏のレポートが、こちらのページに掲載されています。「Eleanor Rigby」のリマスター後の感想など、リマスター盤初めて解禁された情報が多いです。このブログにも転載させていただいます。

 

既報の通り、ザ・ビートルズのデジタル・リマスター盤CDが、いよいよ9月9日に全世界で発売される。1987年以来の新リマスター盤となるこれらの作品のリマスター作業は、EMIのアビー・ロード・スタジオでエンジニアチームが4年がかりで行ったという。

ステレオ盤12タイトルに加え、1987年の初CD化に際し、ビートルズのコア・カタログに加えられた「マジカル・ミステリー・ツアー」、今回1タイトルにまとめられた編集盤の「パスト・マスターズvol.1/Vol.2」で構成された全14作がCD化されて分売されるほか、ミニドキュメンタリーをまとめたDVDを加えたステレオ盤ボックスセット「The Stereo Albums」(35,800円)も発売。さらにモノラルバージョンをボックスセットにした「The Beatles In Mono」(39,800円)も初回生産限定で販売される。

7月上旬にエンジニアが来日し、東京・恵比寿のマランツショールームでリマスター盤の試聴会が開催。一部楽曲の新旧盤を、B&W「802D」とクラッセのシステムで比較試聴することができた。アビー・ロード・スタジオで数多くのB&Wスピーカーが使われているため、エンジニアのリクエストによりマランツショールームが試聴会場に選ばれたのだ。

本稿では、この試聴会に参加したAV評論家きってのビートルマニアである大橋伸太郎氏が、新リマスター盤の魅力をレポートする。

「時間がありますので、リストにある14曲以外に3曲だけ、ご希望の曲を新リマスターで再生しますので、聴きたい曲はありますか?」

9月9日に全世界でリリースされるザ・ビートルズのデジタル・リマスター盤CDの試聴会を始めるにあたって、EMIの担当者が会場に詰めかけた報道陣に訊ねたので、手を挙げて「『エリナー・リグビー』を」とお願いした。

「ツイスト&シャウト」(『プリーズ・プリーズ・ミー』)から「カム・トゥゲザー」(『アビイ・ロード』)まで、現行CDと今回のステレオ音源リマスターの聴き比べが進行。最後に私のリクエスト「エリナー・リグビー」がプレイバックされた。

ご存じの方は多いと思うが、この曲のステレオバージョンは、ポールの歌い出しの最初の"Elenor"の"Ele"だけがL,R両チャンネルから聞こえ、すぐに右チャンネルだけの再生になる。わざとそうしたのでなく、1966年にジョージ・マーティンがステレオミックスを作った時のミスである。

緊張しながら耳を済ませたが、新リマスターのポールはやはり最初"Ele"で両チャンネルに現れ、その後は右チャンネルに移って最後まで歌い続けた。ノイズによる高域の荒さが改善され、くっきりと立体的になった端正な音を聴きながら、ホッと安堵に胸を撫ぜ下ろし、次にやや拍子抜けした思いを味わった。

私に限らず、ザ・ビートルズのファンは神聖なビートルズの音源を「いじってほしくない。発表当時にあったあるがままの音で聴きたい」気持ちと、「新しい何かが出てきて欲しい」気持ちのアンビバレンツを抱えている。ご承知の通り、ビートルズのオリジナルアルバム全13作(1987年のCD化の時点で、当初アメリカ編集盤として発売された『マジカル・ミステリー・ツアー』をオリジナルアルバムに昇格させている)の現行CDに、ボーナストラックは1曲も追加されていない。

ロックとポップミュージックの新約聖書であるビートルズのアルバムと音源は、足したり引いたりしてはならない聖典だった。今回初めて最新テクノロジーを使って、そのすべてにノイズ除去を始めデジタルリマスターの手が施されたのである。デジタルリマスターには『レット・イット・ビー・ネイキッド』『LOVE』という先例はあるが、それらはオリジナルアルバムとは別の外伝的作品である。今回のステレオ/モノによる新リマスター全集が、レコード史上の一つの事件である所以である。

試聴会は7月上旬、東京・恵比寿のマランツ・ショールームで行われた。ステレオ・リマスターは全14タイトルで、分売とミニドキュメンタリーを収めたDVD付ボックスセットの両方を発売、一方モノ音源を集大成した『The Beatles in Mono』(ボックスセットのみ。分売なし)が初回限定発売される。この日は、EMIからプロジェクト・コーディネーターのアラン・ローズ氏、アビイ・ロード・スタジオからレコーディング・エンジニアのガイ・マッセイ氏がゲストとして登場した。

詳しいキャリアは省略するが、ローズ氏は『イエロー・サブマリン・ソングトラックス』の5.1ch/ステレオリミックスや『レット・イット・ビー...ネイキッド』を担当したプロデューサー。マッセイ氏は、上記タイトルのミックス等を担当したスタジオ・エンジニアである。登壇したローズ氏は、今回の企画についてこう語った。

「今回のリマスターの目的は、'60年代にスタジオに鳴り響いたビートルズの原音に迫ることだった。4年を費やして6人のチームが三つのグループで仕事をしてきた。なぜ6人かというと、ミスがあった場合に一人が責任を負わず、常にチェックしあうようにという配慮からだ」。

次に、実際の新CD全集の音作りに関して、ローズ氏は以下のように説明した。

「ノイズを取り除いて音場の見通しを改善することが第一だった。ただし、リンゴの激しいドラミングで椅子が軋む音など、生々しいドキュメントはそのまま残したよ。プロジェクトがスタートして最初の2週間はアナログからデジタルへ転換する機材選びだった。それからアルバム一枚一枚時間をかけて作業を進めた。どのノイズを取り除いていくか、ガイが逐一判断した。トランスファーと修正に2~3週間かけてマスタリングし、その上でEQが掛かり過ぎていないかなどを検証。修正すべき点を直して再マスタリング、さらにもう一度チェック、そういう風に作業を進めていったよ」。

「リミッターの使用は必要最小限に止めた。'87年版CDに比較してボリュームレベルが大きくなっているのに気が付くだろう。こうした作業を全てのアルバムで進め、最終的なOKをもらってアップルに渡したわけだ」。

当日の試聴会で聴いた新リマスターサウンドは、従来の'87年版ビートルズCDの特徴であった高域のやや荒れたとげとげしさ(LPのなめらかにロールオフする高域に比べCDの迫真性を生み、それがビートルズのCDの定評を生んでいたわけだが)がきれいにノイズシェープされ、バックグラウンドS/Nの向上によって、楽器の分離感の優れた非常に立体的でクリアなサウンドに生まれ変わっている。要するにきれいで聴きやすいのである。

試聴会の後半になり、アランとガイに質問がある方は、というインタビュータイムになったので、早速手を挙げた。

「既発売のCDで初期タイトルの内、最初からステレオ発売された『ヘルプ!』や『ラバー・ソウル』では、プロデューサーのジョージ・マーティンが、ステレオLPの過度で作為的な分離感をやや修正して、左右の楽器の広がり感をやや内側に寄せてまとまりよく定位させていますが、今回それに類したリミックスは?」という私の質問を聞きながら、それまでフン、フンと頷いていたアランは、いや、そんなことはありえないと頭を振りながら、「原盤のステレオ定位を変えるようなことは、これまでも決してしていない」という回答だった。

これは失礼ながら、当日の通訳氏の知識と翻訳力に問題がある。「いや、そんなことはない。ステレオCDはこの2作に関しては定位が微妙に変わっている」と当方が食い下がると、ようやく意味が飲み込めたらしく「ジョージ(マーティン)は、確かにその2作のステレオ・リミックスを担当したが、あまりに仕事が大変なのでその2作限りで投げ出しちゃったのさ。他の初期タイトルのステレオCD化は僕らが今回初めて手掛けた。僕たちは、オリジナルのバランスを尊重しているよ」。

これには、なるほどと納得。次にこんな質問をしてみた。

「来年2010年は、ビートルズ解散40周年、映画『レット・イット・ビー』公開40周年ですが、とうとうDVDで発売されずじまいだった『レット・イット・ビー』をBD-ROMで発売するとか、ビートルズに関してさらなる企画は?」との私の究極の質問に、「もしそれをやるなら、アップルからきっと連絡があると思うよ」というとぼけた返事だった。

さて、この新リマスター版ビートルズCD全集をどう評価するか、である。ビートルズ好きの友人と話し合ったのだが、「売れる、売れない」に関しては私の観測は「そこそこ売れる」である。ステレオ版に関しては分売されるので、若い世代のロックファンは格段にサウンドの見通しのいいリマスター版は魅力だろう。一方ビートルズのマニアがどう受け止めるかはかなり難しく、はっきり言ってわからない。

従来の'87年版CDはやや硬い音質ながら、当時としてはかなり鮮度、完成度とも高く、不満はなかった。ジョージ・マーティンはすでに引退し、ポール・マッカートニーも引退同然(失礼!)。この二人のどっちかが今回プロデュースに参加していたら話は別だが、いや、もし彼らが参加したとしても、ビートルズはもう「いじれない」のである。今回のリマスターCDは、どちらかというとあくまでテクニカルな産物であり、高度な引き算の印象が強い。

じゃあオマエはどうするのか、買うか買わないのか、という質問に対しては、ステレオのニューリミックスでなく、同時発売のモノラル・ボックス・セット(分売なし)を買うことに決めた。『ザ・ビートルズ』(ホワイトアルバム)や『サージェント・ペパーズ...』がCDとして初めてモノで聴けるだけでなく、「ヘルプ!」と「ラバー・ソウル」に関して、ジョージ・マーティンのCDリミックス以前のオリジナル・ステレオ・ミックス(つまり、LPで聴くのと同じバランス)までオマケで収録されているからである。

さて、この日のお披露目を担ったスピーカーシステムはEMI傘下アビイロード・スタジオで活躍するB&W「802D」であった。アンプはもちろんオール・マランツである。ビートルズファンの一人として、よしなしことを書いてきたが、マランツのシステムと802Dで聴いた新リマスターCDは、オーディオ的にくっきりとしたコントラストの素晴らしいアーカイブで、申し分ない出来だったことを最後に報告しておく。

大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。

Source: phileweb.com

 




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