ビートルズが所属した英音楽大手EMIの買収で知られる英投資会社テラ・ファーマ・キャピタル・パートナーズ。その創設者のガイ・ハンズ氏は、2009年の4月から一度も妻と子供に会っていない。英国の高い税率を嫌い、妻子を残して租税回避地(タックス・ヘイブン)のチャンネル諸島ガーンジーに移住したハンズ氏だが、その代償は大きかった。
07年の信用市場崩壊の直前に実現したEMI買収は、テラ・ファーマにとって最大の取引だった。そして買収時に生じた負債25億ポンド(約3544億円)の返済は、同社の最大の試練となっている。また、この買収取引をめぐって、同社はEMIの負債の債権者である米銀シティグループを提訴した。
この訴訟で、ハンズ氏のガーンジー島移住が注目されることになった。テラ・ファーマは、米マンハッタン地方裁判所に提訴したが、シティグループは英国の裁判所に移すよう請願。これに対しハンズ氏は「不都合」だと反対した。証言のために英国に戻れば、英国非居住者という税制上の立場が脅かされるからだ。ハンズ氏は4日、地裁への提出文書の中で、税制上の英国居住者の判断基準に「かなりの不透明性」があると訴えた。
これに対しシティグループは12日、ハンズ氏の懸念は大げさで見当外れだと反発。テレビ会議の設備を使えば、英国の地を踏まなくても公判の準備や証言は可能だと指摘している。
英国の居住者と判断された場合、ハンズ氏には最高税率が適用される。15万ポンド以上の個人所得にかかる税率は、現行の40%から4月には50%に引き上げられる見込みだ。社会保障税を含めれば、税負担は64%になる。
さらにテラ・ファーマ株のキャピタルゲインにも18%の税がかかり、ハンズ氏は持ち分に応じて負担しなければならない。
一方、ガーンジー島に住む限り、ハンズ氏にキャピタルゲインにかかる税は課されない。所得税も20%だ。同島ではほとんどの事業の最大税率が20%で、ロンドンのガトウィック空港からわずか35分という位置にあることから、多くの企業が集まっている。
英国では、政府が個人所得税の最高税率を50%に引き上げ、バンカーのボーナスに50%の特別税を課すと決定したことから、国外移転を検討する金融機関の幹部も出てきている。
しかし英調査会社タックス・リサーチのリチャード・マーフィー取締役は「税金亡命をすれば、基本的にハンズ氏と同じ状況になる。亡命を考えている人には、親族が重い病気になっても帰らないつもりかと聞きたい。そういう事態になって初めて、親族より税金対策を優先することの不条理を理解するのだ」と述べた。
Source: ブルームバーグ